10月30日 年間第31主日 ルカ19章1~10節 あなたの家に泊まりたい

 今日の福音は先週から少しおいて徴税人ザアカイの話です。
 ザアカイさんは徴税人。先週のたとえ話にも徴税人が出てきましたが、なぜ彼らは罪人とされていたのでしょうか。ご存知の方も多いと思いますが改めて説明します。
イエスの時代、イスラエルを支配していたローマ帝国は、イスラエルの人々から税金を取り立てていました。ところが律法では税金は神殿に納めるものであり、他国に納める規定はありません。自国に税金を納めるのもつらいものですが、ましてや異教徒の国に税金を納めるのは律法にも反し、強い抵抗がありました。それでローマ帝国はユダヤ人の中から徴税人を選び、税金を取り立てる仕事をさせていました。もちろん誰もそんな仕事はしたくありません。そこで規定の税金に好きなだけ手間賃を上乗せして徴収することを認めていました。それでお金のためなら何でもする人、やんちゃな人などがこの仕事に就いたのです。ですから、彼らはお金のために祖国を裏切った者として人々から軽蔑され、敬遠されていました。

 その嫌われ者のザアカイがイエスを見たいと思いました。彼の思いは何だったのでしょうか。興味本位でしょうか、それともイエスのうわさを聞いて関心を持っていたのでしょうか。いずれにしても木に登った彼を見てイエスのほうから「あなたの家に泊まりたい」と声をかけます。それでザアカイは自分の家にイエスを迎え入れたのでした。
 そのときにザアカイは「財産の半分を貧しい人に施し」「だまし取っていたら四倍にして返します」と約束しました。財産の半分とは中途半端なように思いますが、イエスはそれを受け入れました。また、人からだまし取るようなことをしていたということですね。イエスはそれを赦し、「今日この家に救いが訪れた」と宣言されました。ザアカイは彼なりに精一杯イエスの思いに応えようとしたのです。
 今日の話はザアカイの「回心」の話ですが、彼はいつ回心したのでしょうか。立ち上がって宣言したときでしょうか。わたしは木に登ったときから彼の回心は始まっていたのでは、と思っています。というのは、回心は心を回すこと、神に心を向けることです。イエスが通るのを聞いて彼が木に登ったのは、イエスのほうに心を向けたということです。この時点で彼はまだイエスに何も言っていません。しかし、イエスは自分のほうを向いたザアカイを見て声をかけました。ここからザアカイとイエスのかかわりが始まったのです。

彼は回心したあとも徴税人の仕事を続けたようです。すべてを捨ててイエスに従ったわけではありません。しかし、どのような生活の中にあっても神に心を向けることはできます。そこから回心が始まります。「あなたの家に泊まりたい。」イエスに心を向けたとき、イエスのほうからわたしたちの心に泊まりに来てくださるのです。    (柳本神父)